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4直角マスタと変位計を用いた直角度誤差の測定

2023.5.29

そもそも”直角度誤差”とは?

直角度誤差とは、JIS B 6190-1によれば「直進運動部品上の点の軌跡の基準直線と直進運動の基本軸に対応する 直進運動部品の機能点の軌跡の基準軸の傾きと、直進運動の基本軸に対応する ほかの直進運動部品の機能点の軌跡の基準直線の傾きとの差」です。 とても複雑な表現ですが噛み砕くと、直角度誤差とは、 X軸、Y軸、Z軸の運動がお互いにどれくらい直角からずれた関係にあるかを示す機械運動誤差であるといえます。

直角度誤差は、機械の空間精度に影響を与えることが知られています。 例えば、図1に示すような軸構成\(wXYbZt^{**}\)である機械のX方向の運動誤差は、以下のような式\((1)\)で表されます。 直角度誤差を表す第6項・第9項 \(E_{C(0X)Y}\)、\(E_{B(0X)Z}\)\(^{***}\)が運動誤差に影響を及ぼすことがわかります。

\begin{align} e_x = &-E_{XX}(x)-E_{XY}(y)+E_{XZ}(z) \notag \\ & +(E_{CX}(x)+E_{CY}(y)+E_{C(0X)Y})y \notag \\ & -(E_{BX}(x)+E_{BZ}(y)+E_{B(0X)Z})z \tag{1} \end{align}

このように、機械の空間精度を知るために欠かせない要素であり、空間精度を取得する際には必ず直角度誤差の測定が行われます。

図1 軸構成\(wXYbZt\)の機械の例
\(^{**}\)
wはワーク、bはベッド、tはツール
\(wXYbZt\)はベッド上にY軸、X軸、テーブル(ワーク)の順に駆動軸が設置されている機械をあらわします。
\(^{***}\)
ISO230-1付属書Aに基づく直角度誤差の表記
\(E_{\bigcirc(0 \triangle) \square}\)  \(\bigcirc\):誤差の方向、\(\triangle\):基準となる軸、\(\square\):誤差をもつ軸
例えば\(E_{C(0X)Y}\)の場合、C軸(Z軸周りの回転)方向の直角度誤差を、X軸から見たY軸の (直角からの)ずれとして与えているという意味です。 一般的に、基準となる軸を変えると直角度誤差の値が正負逆転するので注意が必要です。

4直角マスタと変位計で直角度誤差を測る

直角度誤差の直接測定には、4直角マスタと変位計を用いるのが一般的です。
  外周4辺それぞれの真直度と隣り合う外周2辺どうしの直角の精度が保証されたアーティファクトが、4直角マスタです。 機械の運動軌跡を測定する際の基準として用いるのに適しています。 金属製のものに比べて温度の影響を受けにくく、また耐摩耗性に優れるため、写真1のようなセラミックス製のものを、当社では主に利用しています。

写真1 4直角マスタ
(新東Vセラックス製)
Image 1
図2 X軸、Z軸の運動軌跡を測定
Image 2
図3 2軸間の直角度誤差を求める

以下に4直角マスタと変位計を用いた測定方法を概説します。 図2のように機械を1軸ずつ駆動させ、テーブル上に設置した直角マスタと主軸の相対変位を変位計で測定し、 主軸(機械)の運動軌跡を取得します。この運動軌跡の測定を2軸について行います。 次に、図3のように、得られた二つの運動軌跡の軸平均線を基準直線として、 2基準直線の直角からのずれ、すなわち2軸間の直角度誤差を求めます。 (実際には、XY、YZ、ZXの3つの軸の組み合わせについて直角度誤差を知る必要があるので、 この直角度誤差測定を3回行うことになります。)

ここで求められた直角度誤差は、測定を行った機械座標と必ず紐づけられている必要があります。 何故なら、直角度誤差は一意に定まるわけではなく、測定座標によって変化しうるからです。 これを機械の誤差マップ(機械の運動軌跡を2次元格子状に描いたもの)の一例を示して説明します。 図4の誤差マップを見ると、位置①と位置②で直角度誤差が異なっていることがわかります。

Image 2
図4 場所による直角度の違い