直角度誤差測定とアッべの原理
アッべの原理とは
「アッべの原理」をご存じでしょうか。「測定精度を高めるためには、測定対象物と測定器具の目盛を測定方向と同一直線上に配置しなければならない」という原理で、ものの長さを測定する際に注意すべきポイントのひとつです。
直定規で対象物の長さを測る場合を例にとって考えてみましょう。測定点に対する直角方向からの目線のずれをθとすると、測定長さにLtanθ分の角度誤差起因のずれ量が生じます。(右図)。この誤差を極力小さくするためには、測定対象物と測定器具を同一線上に置き、距離Lをゼロにすることが有効です。
直角度誤差の測定におけるアッべの原理
工作機械の精度測定でも、アッべの原理に注意することで測定誤差を小さくできる場面があります。4直角マスタと変位計を用いた直角度誤差の測定を例に考えてみましょう。
図のように、Z軸平均線を測定するケースを考えます(直角度誤差の測定についてはブログ記事「4直角マスタと変位計を用いた直角度誤差の測定」参照)。測定対象は、工具先端点をz軸方向に移動させていく際の x 方向の変位量 \(E_{XZ}(z)\) です。実際に変位計で測定するのは、工具先端点と直角マスタ表面との距離の変化量になります。
このとき、工具軸線とZ軸の角度は理想的にはゼロですが、実際には \(z\) の変化に伴って \(θ\) 回転する場合があります。その場合、観測点の距離には \(e=L_1tanθ\) だけの角度 \(\theta\) に起因するずれ量が加わることになります。ここで、角度 \(θ\) とは主軸の姿勢誤差 \(E_{BZ}(z)\) に他なりません。つまり、本来 \(E_{BZ}(z)\) から独立した誤差である \(E_{XZ}(z)\) に、 \(E_{BZ}(z)\) の誤差成分(アッべエラー)が加味されてしまうということです。
実際にアッべエラーがどの程度の誤差になるか確認してみましょう。 \(θ\) が微小な場合、tan𝜃≅ 𝜃と近似できるので
\begin{equation} e=𝐿_1 𝜃 \nonumber \end{equation}
仮に\(𝐿_1=200\) [mm], \(𝜃=10\) [urad]と仮定すると、 \(𝑒=0.2\) [m] \(×10\) [um⁄m] \(=2\) [um]程度となり、アッべエラーによってダイヤルゲージの目盛りが \(2\) um 動くことになります。
アッべの原理に従うと、この測定誤差を最小化するためには、対象物と測定機器の目盛りの距離をゼロにする必要があります。今回の測定においては、工具長 \(L_1\)をできる限り小さくすることにより、主軸の角度誤差起因のずれ \(e\) を小さくすることができます。
工具長を短くする利点
ここからは余談になりますが、工具長を短くする利点は他にもあります。
ダイヤルゲージにかかる反力により、工具には右図のようなX軸方向のたわみが生じます。わずかな量に思えますが、機械精度測定においては意外に無視できない値になります。
図のように、測定力(ゲージの接触点から工具に働く反力)\(F=0.05\) [N]、工具のヤング率を \(E=199\) [GPa]、\(L_1=200\) [mm]、\(d=8\) [mm] と仮定すると、
断面二次モーメント: \(I = \frac{\pi d^4}{64}\)
たわみ量: \( \delta = \frac{FL^3}{3EL} = 0.0033 [mm] = 3.3 [\mu m]\)
となり、数μm程度の誤差が生じることが分かります。
測定の誤差をできるだけ小さくするためには、工具長を短くすることをぜひ意識してみてください。